健康のために、毎日お酢ドリンクやレモン水を飲んでいませんか。
虫歯はないと言われたのに冷たい水がしみる、前歯の先が薄く透けてきた。
そんな変化があるなら、酸で歯が溶ける「酸蝕歯」のサインかもしれません。
歯科衛生士の佐伯なおです。
正直に言うと、酸蝕歯は健康に気をつけている人ほどなりやすい傾向があります。
この記事では、歯が溶ける人に共通する飲み方と、やめずに続けられる対策をお伝えします。
目次
酸蝕歯とは?虫歯とは違う「酸で溶ける」歯のトラブル
細菌がいなくても歯は溶ける
虫歯は、歯垢の中の細菌が糖を分解して酸を出し、その酸で歯が溶ける病気です。
酸蝕歯(酸蝕症)は、このプロセスに細菌がかかわりません。
食べ物や飲み物に含まれる酸が、歯の表面を直接溶かしてしまいます。
医薬基盤・健康・栄養研究所が運営する「健康食品」の安全性・有効性情報のコラム「食品やサプリメントで歯が溶ける?酸蝕症をご存じですか?」では、酸蝕症を「細菌の関与しない化学的な歯の不可逆的な脱灰・溶解」と説明しています。
不可逆的、つまり一度溶けて失われた歯の形は元に戻りません。
虫歯と同じく、予防がいちばんの対策になります。
歯が溶け始めるのはpH5.5あたりから
口の中は、ふだんpH7前後の中性に保たれています。
神奈川県歯科医師会の解説「歯が溶ける!?「酸蝕症」とは?」によると、pH5.5以下になると歯は溶けやすくなります。
歯の表面を覆うエナメル質は体の中でいちばん硬い組織ですが、酸には意外なほど弱いのです。
ただし、酸っぱいものを口に入れた瞬間に歯が溶けて消えるわけではありません。
唾液には酸を薄めて中和し、溶けかけた表面を修復する働きがあります。
問題になるのは、唾液の修復が追いつかないほど、酸にさらされる時間が長く、回数が多いときです。
日本人の4人に1人という身近な数字
先ほどのコラムによると、酸蝕症の罹患率は25〜60%と報告されており、日本人のおよそ4人に1人がかかっているとされています。
現場で患者さんの口を見ていても、この数字には実感があります。
前歯の先が少し透けていたり、奥歯の表面がつるんと平らになっていたりする方は珍しくありません。
ご本人は気づいていないことがほとんどです。
炭酸水・お酢・柑橘はどれくらい酸っぱいのか
身近な飲食物のpHの目安
歯を溶かす力を考えるとき、ひとつの目安になるのがpHです。
複数の歯科医院が公開している測定値をもとに、おおよその数字をまとめました。
製品や測り方で数字は変わるので、あくまで目安として見てください。
| 飲食物 | pHの目安 |
|---|---|
| レモン果汁 | 約2 |
| コーラなど甘い炭酸飲料 | 約2〜3 |
| 栄養ドリンク | 約2.5 |
| 食酢・黒酢ドリンク | 約3 |
| スポーツドリンク | 約3.5 |
| みかん・オレンジジュース | 約3.5〜4 |
| 赤ワイン | 約3.5〜4 |
| 無糖の炭酸水 | 約4〜5(製品差が大きい) |
| 水・牛乳 | 約6.5〜7 |
米国の歯科医師会誌に2016年に載った研究では、市販飲料379種類のpHを測り、pH3未満を「非常に歯を溶かしやすい」、pH3〜4未満を「歯を溶かしやすい」、pH4以上を「溶かしにくい」と分類しています(The pH of beverages in the United States)。
この研究では、じつに93%の飲料がpH4未満でした。
水とお茶以外の飲み物は、ほとんどが歯にとって酸性だと思っておいて間違いありません。
無糖の炭酸水は「気にしすぎなくていい」寄り
炭酸水で歯が溶けると聞いて、飲むのをやめた方もいるかもしれません。
無糖の炭酸水は、炭酸ガスが溶けてできる弱い酸のため、pHは5.5を下回ることがあります。
それでも、酸そのものの量は少なく、表の上のほうにある柑橘果汁や甘い炭酸飲料と比べれば、歯を溶かす力はかなり弱いと考えられています。
注意したいのは、レモンやグレープフルーツの香りがついた炭酸水です。
果汁やクエン酸が入っているものは、ジュースに近い酸っぱさになります。
「無糖だから大丈夫」ではなく、原材料表示に果汁や酸味料があるかを一度見てみてください。
本当に注意したいのは飲む酢・レモン水・柑橘
同じコラムでは、1991年に歯科の学術誌で報告された調査をもとに、酸蝕症のリスクが紹介されています。
柑橘類を1日2個以上食べる人は37倍、飲用の酢を週1回とる人は10倍、清涼飲料を週4〜6本以上飲む人は4倍という数字です。
柑橘類や梅干しに多いクエン酸は、酸蝕を起こす力が強いことでも知られています。
酢も同じく酸が強く、健康のために「原液に近い濃さで毎日」という飲み方は、歯にとってはかなり過酷です。
歯が溶ける人に共通する4つの習慣
酸っぱいものが好き、というだけで酸蝕歯になるわけではありません。
現場で見ていると、歯が溶けている方には「量」より「とり方」に共通点があります。
ここでも、回数より当て方です。
ちびちび飲み・口にためる飲み方
いちばん多いのが、ペットボトルを机に置いて、仕事をしながら少しずつ飲むスタイルです。
1回の量は少なくても、口の中が酸性の時間が一日じゅう続き、唾液が歯を修復する時間がありません。
炭酸飲料やスポーツドリンクをデスクで数時間かけて飲む方は、特に要注意です。
飲み方のクセも関係します。
口に含んで味わう、ブクブクさせる、前歯に当てるように飲むといったクセがあると、酸が歯に触れる時間が長くなります。
以前、毎朝の黒酢ドリンクを口の中で転がしてから飲んでいた患者さんがいて、上の前歯の裏側がつるつるに薄くなっていました。
寝る前と運動中に酸っぱいものをとる
寝ている間は唾液の量がぐっと減ります。
寝る直前に酸っぱい飲み物や果物をとると、酸が薄まらないまま朝まで歯に残ってしまいます。
「夜のレモンサワーを飲んで、そのまま寝る」という流れは、酸蝕歯の典型的なパターンです。
運動中も同じで、汗をかいて口が乾いているところにスポーツドリンクを少しずつ飲むと、唾液の助けが得られません。
ランニングやジム通いを続けている方に、奥歯のすり減りが目立つことがあります。
酸のあとにゴシゴシ強く磨く
酸にさらされた直後のエナメル質は、表面が少しやわらかくなっています。
そこへ硬めの歯ブラシで力いっぱい磨くと、やわらかくなった表面を削ることになります。
酸蝕歯と、力の入れすぎによる歯のすり減りは、セットで見つかることが多いです。
胃酸の逆流や口の乾きがある
酸は飲食物からだけ来るとは限りません。
神奈川県歯科医師会の解説では、胃食道逆流症や摂食障害、アルコール依存症といった、胃酸が口まで上がってくる状態も原因に挙げられています。
胃酸はpH1〜2ととても強い酸です。
胸やけやゲップが多い、朝起きると口の中が酸っぱいという方は、歯の問題だけでなく、内科での相談も考えてみてください。
薬の副作用やストレスで口が乾きやすい方も、唾液の守りが弱くなるので影響を受けやすくなります。
セルフチェック:酸蝕歯のサインを見逃さない
初期は「しみる」「つやがない」から始まる
酸蝕歯は、痛みもなく静かに進みます。
家の外壁が雨で少しずつ削れていくのと同じで、毎日見ていると変化に気づきません。
最初に出やすいのは、冷たいものがしみる知覚過敏と、歯の表面のつやがなくなる変化です。
鏡でできるチェックリスト
明るい場所で、鏡を見ながら確認してみてください。
- 冷たい水や酸っぱいものが歯にしみる
- 前歯の先が薄く透けて見える、ザラつく、小さく欠けている
- 歯の表面の細かい凹凸がなくなり、全体に丸くつるんとしている
- 奥歯の噛む面にくぼみがある
- 詰め物のまわりの歯が減って、詰め物が浮いたように見える
- 歯が以前より黄色っぽく見える(エナメル質が薄くなり、中の象牙質の色が透けるため)
1つでも当てはまり、酸っぱい飲食物を習慣的にとっているなら、次の検診で「酸蝕歯が気になる」と伝えてみてください。
進むとどうなるか
エナメル質がさらに薄くなると、しみる症状が強くなり、歯が欠けやすくなります。
削れた部分が広がれば、歯科医院で詰め物やかぶせ物による処置が必要になることもあります。
酸蝕歯かどうかの判断や、どこまで進んでいるかの見立ては歯科医師にしかできないので、自己判断で様子を見続けないようにしましょう。
やめなくていい、飲み方を変える酸蝕歯対策
飲む時間を決めて、飲み終えたら水を一口
お酢ドリンクもレモン水も、体のために続けたい方は多いと思います。
やめる必要はありません。
変えるのは、とり方です。
酸っぱい飲み物は、だらだら飲まずに時間を決めて飲み切ります。
飲み終わったら、水かお茶を一口飲むか、軽く口をゆすいで酸を洗い流してください。
これだけで、酸が歯に触れている時間はかなり短くなります。
ストローを使い、食事と一緒にとる
酸っぱい飲み物は、ストローを使うと前歯に触れにくくなります。
ストローは口の奥に向けて、前歯に当てないようにくわえるのがコツです。
また、単独で飲むより食事と一緒にとるほうが、食事中に増える唾液が酸を薄めてくれます。
飲む酢は、ラベルどおりに水や炭酸水でしっかり薄めてください。
歯磨きは「すぐ」か「30分待つ」か
「食後30分は歯を磨いてはいけない」という話を聞いたことがあるかもしれません。
これについて日本小児歯科学会は「食後の歯みがきについて」という提言を出しています。
30分説のもとになったのは、象牙質の試験片を酸性の炭酸飲料に90秒浸した酸蝕症の実験で、ふだんの食事では早めに磨いて歯垢を取り除くほうが大切だ、という内容です。
私の考えも同じで、ふだんの食事のあとはすぐ磨いてかまいません。
一方で、酸っぱい飲み物や柑橘を単独でとった直後は、まず水で口をゆすぎ、少し時間を置いてから、やわらかめの歯ブラシで力を抜いて磨くのが安心です。
神奈川県歯科医師会も、酸性の飲食物をとった直後は30分程度置くか、水で洗口してから磨くよう勧めています。
フッ素入り歯磨き粉と定期検診で守る
フッ素(フッ化物)は、溶けかけた歯の表面の修復を助け、酸に強い歯質にする働きがあります。
高濃度のフッ素入り歯磨き粉を使い、磨いたあとのうがいは少量の水で1回程度にすると、フッ素が口に残りやすくなります。
歯科医院でのフッ化物塗布も、酸蝕歯の予防として勧められている方法です。
まとめ
酸蝕歯は、細菌ではなく酸によって歯が溶けるトラブルです。
一度溶けた歯は元に戻らないため、早めに気づいて、とり方を見直すことが何よりの予防になります。
歯が溶ける人に共通しているのは、酸っぱいものの量よりも、ちびちび飲み、寝る前の摂取、酸のあとの強い歯磨きといった「とり方」です。
無糖の炭酸水は気にしすぎなくていい一方、飲む酢やレモン水、香りつきの炭酸水は飲み方に気を配ってください。
お酢ドリンクもレモン水も、やめなくて大丈夫です。
まず1か所だけ変えてみてください。
「飲み終えたら水を一口」なら、明日からでも始められます。
そのうえで3か月に1回の定期検診を受けて、歯の表面の変化を歯科医院でも見てもらいましょう。