朝起きたとき、顎が重たくて、こめかみのあたりまでだるい。
そんな日が続いていませんか。
歯科衛生士の佐伯なおです。
その疲れは、寝ている間の食いしばりが残したものかもしれません。
食いしばりは音がしないため、本人も家族も気づかないまま続いていることがよくあります。
この記事では、口の中の跡から自分で確かめる方法と今夜からできる習慣、マウスピースの選び方までお伝えします。
目次
朝の顎のだるさは、寝ている間の食いしばりのサインかもしれません
起きた直後がいちばんつらく、昼には消えていく
日本歯科医師会の解説ページ「歯ぎしり」では、寝ている間の歯ぎしりや食いしばり(睡眠時ブラキシズム)を見分ける目安のひとつに、起きたときの顎の筋肉の不快感や疲れ、痛みを挙げています。
食いしばりによる筋肉の痛みは、起きた直後がいちばん強く、時間がたつにつれて消えていくパターンをとるそうです。
朝はだるかったのに、お昼にはすっかり忘れている。
このパターンに心当たりがあるなら、夜の間に顎の筋肉が働き続けていた可能性があります。
同じページによると、睡眠中の食いしばりでは、起きているときに思いきり噛みしめた以上の筋肉の活動が記録されることもあるそうです。
それだけの力が一晩のうちに何度もかかるのですから、朝に顎が疲れているのも無理はありません。
「歯ぎしり」は音がして、「食いしばり」は音がしない
厚生労働省のe-ヘルスネット「歯ぎしり」では、歯ぎしりや食いしばりをまとめてブラキシズムと呼び、動き方で3つに分けています。
| 種類 | 動き方 | 音 |
|---|---|---|
| グラインディング | 上下の歯を臼のようにすり合わせる | ギリギリと鳴りやすい |
| クレンチング(食いしばり) | 上下の歯を静かに強く噛みしめる | ほとんど鳴らない |
| タッピング | 上下の歯をカチカチと打ち合わせる | カチカチと鳴る |
家族に「歯ぎしりがうるさい」と言われるのは、たいていグラインディングです。
やっかいなのは食いしばりのほうで、音が出ないので隣で寝ている人も気づきません。
朝の顎のだるさが唯一の手がかり、という人も少なくありません。
日本歯科医師会のページでは、睡眠時の歯ぎしりは成人の約5〜8%にみられると紹介されています。
ただ、この数字は「歯ぎしりの音」の自己申告をもとにしたものです。
音のしない食いしばりまで含めると、実際はもう少し多いのではないかと私は感じています。
自分では気づきにくい食いしばりをセルフチェック
鏡で確かめたい、口の中に残る跡
食いしばりが続くと、口の中に跡が残ります。
朝、歯を磨く前に鏡で次の点を見てみてください。
- 舌の縁に、歯の形に沿った波打つような跡がある
- 頬の内側に、噛み合わせのラインに沿った白い線がある
- 前歯の先や奥歯の山が平らにすり減っている
- 詰め物やかぶせ物がよく外れる、欠ける
- 冷たいものがしみる歯がある
- エラのあたりの筋肉が、噛みしめると硬く盛り上がる
当てはまる数が多いほど、日常的に強い力がかかっていると考えられます。
現場では、舌の縁にくっきり歯型がついている患者さんに「食いしばっていませんか」と聞くと、ほとんどの方が「いいえ」と答えます。
自覚がないまま続いているのが、食いしばりのいちばん困ったところです。
e-ヘルスネットでも、歯ぎしりは自覚症状がない場合が多いと書かれています。
昼間の「歯の接触癖」も一緒に確かめる
寝ている間だけでなく、昼間の癖も見ておきたいところです。
東京科学大学(旧東京医科歯科大学)顎関節口腔機能学分野の「治療内容について」では、不必要に上下の歯を接触させてしまう癖をTCH(歯列接触癖)と呼び、顎関節症の症状が長く続いている人に多く共通していると説明しています。
何もしていないとき、上下の歯は触れていないのが、顎の筋肉や関節にとって負担のない状態です。
確かめ方は簡単です。
スマホのタイマーを20〜30分おきに鳴らし、鳴った瞬間に上下の歯が触れているかどうかを見るだけです。
仕事中に何度やっても「触れていた」となる人は、昼も夜も顎が休めていないのかもしれません。
なぜ寝ている間に食いしばってしまうのか
噛み合わせより「眠りの浅いタイミング」が関係している
「噛み合わせが悪いから食いしばるんですか」とよく聞かれます。
日本歯科医師会の解説では、噛み合わせの異常が原因だとする科学的な根拠は実証されておらず、今は睡眠中の脳の興奮から起こるものと考えられています。
眠りが浅くなったタイミングで自律神経や脳波が活発になり、その流れで顎を閉じる筋肉が強く働く、という順番が観察されているそうです。
つまり、寝ている間の食いしばりは、気合いや心がけが足りないせいではありません。
自分を責めずに、減らせる部分から手をつけていけば大丈夫です。
ストレス、お酒、たばこ、睡眠の問題が重なりやすい
同じ解説では、関わる要因として、ストレス、性格、遺伝、一部の抗うつ薬の服用、飲酒、喫煙、睡眠中の呼吸の障害などが挙げられています。
要因は人によって違い、ストレスだけですべてを説明できるわけでもないようです。
患者さんからは「繁忙期に入ると朝の顎がつらい」「飲み会の翌朝に限ってだるい」という声をよく聞きます。
顎のだるさが強かった朝は、前の晩に何があったかを1〜2週間メモしてみてください。
自分の場合のきっかけが、意外とはっきり見えてくることがあります。
今夜からできる、顎を休ませる習慣
正直に言うと、寝ている間の力は意思では止められない
正直に言うと、寝ている間の食いしばりを自分の意思で止める方法はありません。
日本歯科医師会の解説でも、確実に食いしばりを抑えられる単一の治療法は今のところないとされています。
そのうえで、ストレスや飲酒、喫煙が関わっていそうなら、そこを見直すことで抑えられる可能性があると書かれています。
自分でできるのは、食いしばりのきっかけを減らすことと、昼のうちに顎の負担を減らしておくことの2つです。
寝る前の習慣を1つだけ変えてみる
全部を一度に変えようとすると続きません。
まず1か所だけ変えてみてください。
- 寝る前のお酒の量を減らす、飲まない日をつくる
- たばこの本数を減らす
- 布団に入ってからスマホを見る時間を短くする
- 寝る前に1〜2分、唇を閉じたまま歯を離し、ゆっくり息を吐いて顎と肩の力を抜く
メモで「飲んだ翌朝がつらい」と分かった人はお酒から、「忙しい週がつらい」と分かった人は寝る前の過ごし方から、というように、自分のきっかけに近いものを選ぶと続けやすいです。
昼間に「歯を離す」練習をしておく
昼間の接触癖を減らしても、寝ている間の食いしばりが直接止まるわけではありません。
それでも、顎の筋肉が一日中働きっぱなしの状態から抜け出せれば、休める時間は確実に増えます。
やり方は、唇は閉じたまま上下の歯を離し、頬と舌の力を抜くだけです。
私はパソコンのモニターの端に「歯を離す」と書いた付箋を貼っています。
目に入るたびに歯が触れていないか確かめ、触れていたら一度息を吐いて離します。
付箋は見慣れると目に入らなくなるので、2週間ごとに色や貼る場所を変えるのがコツです。
マウスピース(ナイトガード)は歯を守るための道具
食いしばりを止めるものではなく、歯と顎を守るもの
寝るときにつけるマウスピースは、ナイトガードやスプリントと呼ばれます。
日本歯科医師会の解説では、スプリントで短期的に食いしばりが減ったという報告はあるものの、すべての人に効くわけではなく、長く使っていると元のレベルに戻ることも示されています。
一方で、歯や詰め物・かぶせ物を食いしばりから守れること、顎の関節にかかる負担を減らせる可能性があることは利点として挙げられています。
すり減ったり割れたりした歯は、元には戻りません。
マウスピースは食いしばりを止める道具ではなく、歯を守る防具と考えると、使う意味がはっきりします。
市販品と歯科医院で作るものの違い
ドラッグストアや通販でも、歯ぎしり用のマウスピースが手に入ります。
違いを表にまとめました。
| 比べるポイント | 市販のマウスピース | 歯科医院で作るナイトガード |
|---|---|---|
| 作り方 | お湯でやわらかくして自分で歯に押し当てて形をつけるタイプが多い | 歯型をとって、その人の歯に合わせて作る |
| 噛み合わせの調整 | 自分では難しい | 歯科医師が確認して調整する |
| 費用の目安 | 数千円程度 | 歯ぎしりの治療として作る場合は保険が使えることが多く、3割負担で数千円程度 |
| 向いている人 | まず試してみたい人、出張や旅行など短期間だけ使いたい人 | 朝のだるさが続く人、歯のすり減りやしみる症状がある人 |
費用は医院や素材によって変わるので、受診のときに確認してください。
市販品を否定するつもりはありません。
ただ、厚みや形が合わないまま使い続けると、顎に違和感が出たり、噛み合わせが気になったりすることがあります。
つけて寝た翌朝に顎の違和感がかえって強くなるようなら、使うのをやめて歯科医院で相談してください。
使い始めたら、毎朝の手入れまでがセット
マウスピースは一晩中口の中にあるので、唾液や汚れがしっかりつきます。
手入れを怠ると、においやぬめりの原因になります。
- 外したら水で流し、やわらかい歯ブラシで軽くこすって洗う
- 研磨剤入りの歯磨き粉は細かい傷の原因になるので使わない
- 熱湯は変形のもとになるので避ける
- よく乾かしてからケースにしまう
- つける前に、自分の歯もきちんと磨いておく
定期検診のときにマウスピースを持っていけば、すり減り方や変形も一緒に見てもらえます。
すり減った場所から、どこに強い力がかかっているかが分かることもあります。
こんなときは早めに歯科医院へ
顎の痛みが続く、口が開きにくい
朝だけのだるさとは違い、次のような症状があるときは、セルフケアで様子を見ずに歯科医院に相談してください。
- 顎の痛みが昼を過ぎても続く、日に日に強くなる
- 口を大きく開けにくい(人差し指から薬指までの3本を縦にそろえて入らないのがひとつの目安)
- 口を開け閉めするたびにカクカク音がして、痛みもある
- 歯が欠けた、割れた、しみる歯が増えた
顎の関節や筋肉の不調が続く状態は顎関節症と呼ばれ、食いしばりはその原因のひとつと考えられています。
e-ヘルスネットでは、歯ぎしりが習慣になると頭痛や肩こりにつながる可能性や、知覚過敏や歯周病を悪化させる要因になることも指摘されています。
いびきや日中の眠気が強い人は、睡眠の相談も
日本歯科医師会の解説では、睡眠中の呼吸の障害も食いしばりに関わる要因として挙げられています。
家族にいびきや呼吸が止まっていると言われた人、しっかり寝たはずなのに日中に強い眠気がある人は、歯科だけでなく内科や睡眠外来にも相談してみてください。
顎のだるさの裏に、別の問題が隠れていることもあります。
まとめ
朝の顎のだるさは、寝ている間に顎の筋肉が働き続けていたサインかもしれません。
食いしばりは音がしないので、舌の縁の歯型や歯のすり減りといった口の中の跡から気づくことが多いです。
寝ている間の力そのものは意思では止められませんが、寝る前の習慣と昼間の歯の接触癖は変えられます。
まず1か所だけ変えてみてください。
歯のすり減りやしみる症状まで出ているなら、マウスピースで歯を守ることも考えてみましょう。
食いしばりの跡は、本人より歯科医院のほうが先に気づくことも多いものです。
3か月に1回の定期検診で口の中を見てもらいながら、セルフケアを続けていきましょう。