「1日3回、毎食後にちゃんと磨いています」
歯磨き指導の場でそう言われると、こちらとしては安心するはずなんです。
ただ、正直に言うと、そのあとに染め出しをして気まずくなったことが何度もあります。
歯の表面はきれいなのに、奥歯の裏側と歯と歯の間だけがくっきり赤く染まって残っている。
はじめまして、佐伯なおと申します。
大阪府内の歯科医院に勤める歯科衛生士で、予防歯科の担当になってから10年、この仕事自体は16年目になりました。
毎日10人前後の患者さんのお口を見ていますが、歯周病が進んでいる人が必ずしもサボっているわけではありません。
むしろ回数を増やして力任せに磨いた結果、歯ぐきが下がってしまった人のほうが記憶に残っています。
この記事では、「1日何回」「1回何分」という質問に国のデータと学会の推奨からはっきり答えたうえで、それより結果を左右する3つのポイントをお伝えします。
今日から変えられるのは、たぶん1か所だけです。
その1か所を選ぶための材料だと思って読んでみてください。
目次
データで見る、日本人の歯磨き回数の現在地
まず、あなたが多数派なのか少数派なのかを確認しておきましょう。
自分の位置がわかると、増やすべきか、別のところに手を入れるべきかの判断がつきやすくなります。
1日2回以上磨く人は82.0%
厚生労働省が実施している歯科疾患実態調査の最新版(令和6年、2024年実施)によると、1歳以上で毎日歯をみがく人の割合は97.2%でした。
そのうち毎日2回以上みがく人は82.0%です。
内訳は1日1回が15.7%、2回が50.5%、3回以上が31.1%となっています。
推移で見ると、この数字はずっと右肩上がりです。
| 調査年 | 1日1回 | 1日2回 | 1日3回以上 |
|---|---|---|---|
| 昭和44年(1969年) | 62.8% | 15.1% | 1.8% |
| 平成11年(1999年) | 28.7% | 47.5% | 18.8% |
| 平成28年(2016年) | 18.3% | 49.8% | 27.3% |
| 令和4年(2022年) | 18.2% | 50.8% | 28.4% |
| 令和6年(2024年) | 15.7% | 50.5% | 31.1% |
(厚生労働省「令和6年歯科疾患実態調査結果の概要」より作成)
50年前は1日1回派が6割を超えていました。
今は3回以上磨く人が3割です。
回数という一点だけを見れば、日本人はもう十分に頑張っています。
それでも歯ぐきからの出血は減っていない
問題はここからです。
同じ調査で「歯をみがくと血が出る」と答えた人は全体の6.3%、年代別では60〜64歳が12.8%で最も高くなっていました。
35〜39歳でも10.4%、50〜54歳で10.9%と、働き盛りの世代がむしろ高い値を示しています。
歯ぐきからの出血は、歯ぐきに炎症が起きているサインです。
1日2回以上磨く人が8割を超えた国で、この数字が残っている。
つまり「回数を増やす」という方向の努力は、そろそろ頭打ちなんだろうと私は感じています。
回数を増やしても変わらない人の共通点
現場で見ている限り、回数を増やしても結果が変わらない人には共通点があります。
毎回、同じ場所から磨き始めて、同じ順番で、同じところを飛ばしている。
利き手側の奥歯の外側、下の前歯の裏側、そして歯と歯の間。
染め出しをすると、朝も昼も夜も、判で押したように同じ場所が残ります。
同じ磨き方を3回繰り返すのは、練習量を増やしているようで、実は苦手な場所を3回スルーしているだけです。
だから私は指導のとき、まず「普段のとおりに磨いて見せてください」とお願いします。
回数を聞くより、そちらのほうが情報量が多いんです。
「1日何回」の答えは、就寝前を含めて2回
結論から言います。
最低ラインは1日2回、そのうち1回は必ず就寝前です。
これは私の経験則ではなく、学会が示している基準です。
4学会が示す「就寝前を含め1日2回」
2023年に日本口腔衛生学会・日本小児歯科学会・日本歯科保存学会・日本老年歯科医学会の4学会が合同で、う蝕予防のためのフッ化物配合歯磨剤の推奨される利用方法をまとめています。
そこには年齢を問わず、フッ化物配合歯磨剤を使った歯みがきを「就寝前を含め1日2回行う」と明記されています。
注目してほしいのは、回数そのものより「就寝前を含め」という条件のほうです。
1日2回でも、朝食後と昼食後の2回では推奨を満たしていません。
夜がいちばん大事な理由
寝ている間は、唾液の量が大きく減ります。
唾液には口の中の汚れを洗い流したり、酸を中和したり、溶け出したミネラルを歯に戻したりする働きがあります。
厚生労働省のe-ヘルスネットでも、ライフステージ別にみたむし歯の特徴のなかで、睡眠中は唾液の分泌が減るため就寝前の飲食がリスクになると説明されています。
日中は、唾液という自前の洗浄システムが働いています。
それが止まる夜に汚れを残したまま眠るのが、いちばん条件が悪い。
就寝前の1回が特別扱いされているのは、そういう理由です。
朝は起きてすぐか、朝食後か
もう1回をいつにするかは、朝食の前後どちらでも構いません。
起床直後に磨けば、寝ている間に増えた細菌を飲み込む前に減らせます。
朝食後に磨けば、食べかすとその日の汚れを落とせます。
どちらか一方しか選べないなら、私は「続けられるほう」を勧めています。
朝の支度が慌ただしい人が起床直後の1回を足そうとしても、だいたい三日で消えます。
ちなみに私自身は起床直後にざっと磨いて、朝食後は水でゆすぐだけです。
3回以上磨くのは悪いことなのか
ここはよく聞かれます。
結論としては、磨き方が適切なら3回でも問題ありません。
ただ、回数が増えるほど、力の入れすぎによる害が積み重なるのも事実です。
強い力で長年こすり続けると、歯ぐきが下がって歯の根元が露出したり、歯と歯ぐきの境目がくさび状にえぐれたりします。
根元の部分はエナメル質に覆われていないぶん、しみやすく、虫歯にもなりやすい場所です。
一度下がった歯ぐきは、自然には元に戻りません。
回数を3回に増やすかどうかで迷っているなら、増やす前に力加減を確認するほうが先です。
これについては後ろの章で具体的な測り方を書きます。
「1回何分」の答えは、最低2分
次は時間の話です。
「3分磨きましょう」と教わった人が多いと思いますが、根拠のはっきりしている線引きは2分です。
1分と2分で、落ちる汚れがこれだけ変わる
2025年に国際歯科衛生士学会誌(International Journal of Dental Hygiene)に掲載されたSeuntjensらのシステマティックレビューでは、1分磨いた場合と2分磨いた場合のプラークスコアが比較されています。
| 歯ブラシの種類 | 1分後の減少率 | 2分後の減少率 |
|---|---|---|
| 手用歯ブラシ | 約27% | 約41% |
| 電動歯ブラシ | 約32% | 約38% |
| 電動歯ブラシ(別の指標での集計) | 約61% | 約67% |
(Seuntjens MT ほか「Plaque Scores After 1 or 2 Minutes of Toothbrushing」2025年より作成)
手用歯ブラシでは、1分から2分に延ばすだけで落ちるプラークが1.5倍近くになっています。
一方で、2分から先を延ばし続けても、同じ勢いで増えるわけではありません。
2分というのは、コストパフォーマンスが切り替わる境目だと考えるとしっくりきます。
多くの人は、自分が思うより短く磨いている
同じ論文には、実際の人が磨いている時間は推奨されている2分の半分程度だという指摘もあります。
つまり平均1分前後です。
これは現場の感覚とも一致します。
「3分は磨いてます」と言う患者さんに、その場でスマホのタイマーを渡して普段どおり磨いてもらうと、だいたい50秒から1分20秒あたりで手が止まります。
本人はまったく嘘をついていません。
集中していると、時間の感覚は驚くほど縮みます。
3分にこだわらず、まずタイマーを1回だけ
私が勧めているのは、毎回時間を計ることではありません。
今の自分が何分磨いているのかを、1回だけ測ってみることです。
- スマホのストップウォッチを回してから、いつもどおりに磨く
- 磨き終わったと感じた時点で止める
- 表示された時間を見る
それが40秒なら、あなたの課題は磨き方より前に「時間」です。
すでに2分を超えているなら、時間は足りているので、次の章から先に取り組んだほうが早く結果が出ます。
夜だけ2分、朝は1分でもいい。
全部を完璧にしようとすると、続きません。
回数より大事なこと①:歯ブラシが届いていない場所を知る
ここからが本題です。
回数と時間の目安をクリアしても結果が変わらない人には、たいてい別の理由があります。
磨き残しは、ほぼ決まった場所に出る
16年間、染め出しをしてきて言えるのは、磨き残しの場所には強い偏りがあるということです。
よく残るのは次の場所です。
- いちばん奥の歯の、さらに奥側の面
- 下の前歯の裏側(唾液腺の出口が近く、歯石もつきやすい)
- 上の奥歯の外側、頬に近い面
- 歯と歯ぐきの境目のくぼみ
- 歯と歯の間
歯ブラシを持つ手は、無意識に楽な角度を選びます。
利き手側の奥歯の外側は、手首を大きくひねらないと毛先が当たりません。
だから3回磨いても、そこだけずっと汚れが残る。
歯と歯の間は、歯ブラシでは6割しか落ちない
歯間は、歯ブラシの毛先が構造的に入りにくい場所です。
ライオン歯科衛生研究所が公開している歯と歯の間のケア方法では、歯ブラシだけの清掃で落とせるプラークは約60%、デンタルフロスや歯間ブラシを併用すると約90%まで上がると紹介されています。
30ポイントの差を、歯ブラシの回数で埋めるのは無理があります。
歯間ブラシは通すだけでなく、歯の側面の壁をこするように動かすと汚れが取れます。
このあたりの使い分けについては、ひきしょう歯科クリニックの歯医者が教えるフロスと歯間ブラシの使い分け方という記事の解説が具体的でわかりやすいので、道具選びで迷っている人は目を通してみてください。
なお、令和6年の歯科疾患実態調査では、デンタルフロスや歯間ブラシを使っている人は54.2%でした。
半分近くの人が、6割で止まっている計算になります。
フロスは1日1回、夜だけでいい
「フロスも毎食後ですか」と聞かれると、私は「夜だけで十分です」と答えます。
古い研究ですが、1973年にLangらがJournal of Periodontologyに発表した実験がよく引き合いに出されます。
歯を完全にきれいにする間隔を12時間・48時間・72時間・96時間に分けて比べたところ、48時間おきまでなら歯ぐきの炎症が起きなかったという内容です。
ここで大事なのは「完全にきれいにできれば」という前提のほうで、実際にそこまで落とし切るのは簡単ではありません。
それでも、この研究が示しているのは、汚れが炎症に育つまでには時間の余裕があるということです。
毎食後に慌ててフロスを通すより、夜の1回を丁寧にやるほうが理にかなっています。
私自身も、フロスは夜だけです。
回数より大事なこと②:フッ化物を口に残す
2つ目は、歯磨き粉の使い方です。
ここは知っているだけで結果が変わるので、いちばん先に手をつけてもいいくらいだと思っています。
磨くだけでは、虫歯はあまり減らなかった
少し衝撃的なデータを紹介します。
厚生労働省のe-ヘルスネット歯みがきによるむし歯予防効果には、学校での実験結果として、毎日15分程度の歯みがきを行っても、奥歯を含めた全体のむし歯発症数では有意な予防効果が得られなかったと書かれています。
一方、予防効果を比べた部分では、フッ化物洗口の予防率が49%、フッ化物配合歯磨剤による歯みがきが18%および23%、フッ化物を含まない歯磨き剤での歯みがきでは差が認められなかったとされています。
読み返すと、なかなか厳しい内容です。
毎日15分磨いても、フッ化物が入っていなければ数字が動かなかった。
歯みがきという行為の価値は、汚れを落とすことと、フッ化物を歯に届けることの2つに分かれていて、後者を捨てている人がとても多いんです。
濃度と量を、いま一度確認する
先ほどの4学会の推奨では、年齢ごとの濃度と量がはっきり示されています。
| 年齢 | 使用量 | フッ化物濃度 |
|---|---|---|
| 歯が生えてから2歳 | 米粒程度(1〜2mm) | 900〜1000ppmF |
| 3〜5歳 | グリーンピース程度(5mm) | 900〜1000ppmF |
| 6歳〜成人(高齢者を含む) | 歯ブラシ全体(1.5〜2cm) | 1400〜1500ppmF |
(4学会合同「う蝕予防のためのフッ化物配合歯磨剤の推奨される利用方法」2023年版より作成)
大人の欄をもう一度見てください。
歯ブラシ全体、1.5〜2cmです。
指導していると、豆粒ほどしかつけていない人が本当に多い。
昔の「つけすぎは良くない」という感覚が残っているのだと思いますが、6歳以上の推奨量は毛先いっぱいです。
濃度も、パッケージの裏を確認する価値があります。
1450ppmと書かれた製品が今は普通に市販されています。
うがいは、少量の水で1回だけ
そして、いちばん多くの人が損をしているのがここです。
4学会の推奨には、歯みがきのあとは歯磨剤を軽くはき出し、うがいをする場合は少量の水で1回のみとする、と書かれています。
コップに水をなみなみ入れて、3回も4回もぶくぶくして口をさっぱりさせる。
気持ちはよくわかるのですが、せっかく口の中に行き渡ったフッ化物を、自分の手で洗い流していることになります。
歯磨き粉を変えるより、うがいの回数を減らすほうがお金もかかりません。
正直に言うと、私も衛生士になるまでは3回ゆすいでいました。
今は少量の水で1回、それだけです。
最初の数日は口の中に膜が残る感じがして落ち着きませんでしたが、1週間で慣れました。
回数より大事なこと③:力とタイミングのクセを直す
3つ目は、磨き方のクセです。
毎日のことなので、小さなズレが年単位で積み上がります。
ブラッシング圧は、キッチンスケールで測れる
適切なブラッシング圧の目安は150〜200gとされています。
数字で言われてもピンとこないと思うので、家で確かめる方法をお伝えします。
キッチンスケールの上に歯ブラシを立てて、いつもの力で押してみてください。
表示が500gを超える人は、かなり強めです。
毛先が横に広がった状態では、毛先が歯面をとらえず、脇腹で歯ぐきをこすっているだけになります。
歯垢はのり状の汚れなので、こそげ落とすほどの力は要りません。
歯ブラシの毛先が広がるのが1か月より早い人は、力が強い可能性が高いと考えてください。
食後すぐに磨いても大丈夫
「食後30分は磨かないほうがいい」という話を聞いたことがある人もいると思います。
これについては、日本小児歯科学会が2014年に食後の歯みがきについてという見解を出しています。
そこでは、酸性の飲食物が歯を直接溶かす酸蝕症と、歯垢中の細菌がつくる酸による虫歯は成り立ちが違うと説明されたうえで、通常の食事のときは早めに歯みがきをして歯垢と細菌を取り除くほうが重要だとされています。
学校での昼食後の歯みがきも、従来どおりで問題ないという結論です。
炭酸飲料や柑橘類を長時間だらだらと口にした直後は、少し時間を置いてもいいかもしれません。
ただ、普通の食事のあとに時計とにらめっこする必要はありません。
まず1か所だけ変えてみてください
ここまで書いてきたことを全部やろうとすると、たぶん破綻します。
私が指導のときにいつも言うのは、「まず1か所だけ変えてみてください」ということです。
実は私自身、衛生士になりたての頃に自分の歯ぐきを検査してもらって、歯周ポケット4mmと言われたことがあります。
人に指導する立場の人間としては恥ずかしくて、しばらく誰にも言えませんでした。
そのとき変えたのは、フロスを夜だけ毎日やるという1つだけです。
数か月後の検査で数値が改善したときの安心感は、今でも覚えています。
あれもこれもと欲張って全部やめてしまうより、1つを3か月続けるほうが、結果としてずっと遠くまで行けます。
セルフケアで届く範囲には限界がある
最後に、正直な話をしておきます。
歯石は自分では取れない
歯垢は、放置すると唾液に含まれるカルシウムやリンと結びついて硬くなります。
石灰化が始まるのは数日、硬い歯石になるまでは1〜2週間ほどと言われています。
いったん歯石になると、歯ブラシでもフロスでも取れません。
e-ヘルスネットの歯周病の予防と治療でも、歯石は自分で取ることができないため、定期的に歯科医院を受診して取ってもらう必要があると説明されています。
同じページには「歯みがきをしない人はいないと思いますが、正しく磨ける人は意外に少ない」という一文もあって、指導する側としては耳が痛くもあり、心強くもあります。
検診に行っている人は、もう6割を超えた
令和6年の歯科疾患実態調査では、過去1年間に歯科検診を受けた人の割合は63.8%でした。
男性が60.6%、女性が66.5%です。
最も低いのは20〜24歳の男性で36.4%でした。
同じ調査で、80歳で20本以上の歯を持つ人(8020達成者)は61.5%まで増えています。
前回調査の51.6%から約10ポイントの増加です。
セルフケアと定期的な検診の両輪が、少しずつ効いてきているのだと思います。
3か月に1回というのが、多くの医院で勧められている間隔です。
歯石のつきやすさには個人差があるので、自分に合う間隔は担当の歯科衛生士に聞いてみてください。
予防に力を入れている医院の一例として、堺市のひきしょう歯科クリニックの予防歯科ページのような、定期検診とクリーニングを軸にした考え方を掲げているところを選ぶと、セルフケアの相談もしやすいはずです。
まとめ
長くなったので、要点だけ整理します。
- 回数は、就寝前を含めて1日2回が基準。3回以上は力加減が適切ならOK
- 時間は最低2分。1分と2分では落ちるプラークが1.5倍近く違う
- 歯間は歯ブラシでは約6割まで。フロスや歯間ブラシは夜1回で十分
- 6歳以上は1400〜1500ppmFの歯磨き粉を1.5〜2cm、うがいは少量の水で1回
- 力は150〜200g。毛先が広がるのが早い人は強すぎる
- 歯石は自分では取れないので、定期検診とセットで考える
回数を1回増やすのは、やった感があります。
でも、うがいを3回から1回に減らすほうが、たぶん効きます。
私が指導で最初に「磨き方を見せてください」とお願いするのは、回数を聞いても何も見えてこないからです。
あなたの口の中で汚れが残っているのは、たぶんいつも同じ場所です。
そこに毛先を当てられるようになれば、回数はむしろ減らせます。
今日の夜、うがいを1回にするところから始めてみてください。
そして3か月に1回の定期検診を、セルフケアの相棒として使ってもらえたらうれしいです。